2026年1月19日月曜日

歌集 「夏祭りまで」

      1996年6月 14首 

 

 

 

白肌も胸のふるえも求めねば少し離れて夏祭りまで

 


酸漿の赤きを白き白き歯に軽く噛みつつわが(かいな)とる

 


わが()れし八月近し一夜二夜花火の夢のしずかに続く

 


触れし胸ことに乳首甦る立夏のあつき闇のひとりよ

 


蛍光灯しらしら寂し脱衣する滅びし者の女のごとく

 


なお触れぬ部位求めこころ滑るとき寄せくる波の青の数々

 


口もとのふと寄る皺のいよよ濃く立夏を刻む緑濃き園

 


絡まり来る中指の腹紫陽花の花弁の(はだえ)乾きていたり

 


ふと欲のなき肉体の澄みゆくか滝近き水面(みなも)白き鳥過ぐ

 


詳らかに詳らかに見るどの肌も甲虫のごとき精巧さ持つ

 


夜の床に吹き入る風のあきらかに悔い持たぬ()には人肌に似

 


どの恋もはるばると遠き夏の沖大き白船近づかず去らず



脱ぎ置きし服の皺影さかのぼる(いにしえ)のかたち他にあり得



終着の駅人声は絶えており低き讃歌のごとき蜂群れ






  [初出]短歌草紙「行」第二号 平成八年六月(1996年6月)
 (編集発行人:駿河昌樹 発行場所:東京都世田谷区代田1-1-5  ホース115-205)