2020年8月22日土曜日

はじめに

 自作の古い詩歌を再訪するのは、悪趣味や悪徳の類には違いない。しかし、意外に思われるかもしれないが、自意識の魔に誑かされての所業というものとは違うと感じる。それらを作った過去の自意識はとうに滅びているからである。

 書籍としての歌集出版を望んだことは私はまったくないが、小規模な歌集は作り続け、その都度、自分の精神のありようの区切りとしてきた。今「旧歌帖」と名づけてそれらをファイルし直しておこうとするのは、さすがに制作した量が厖大になって自作の短歌の変遷ぐあいを見通しづらくなったためである。純粋に利己的かつ事務的な理由による「旧歌帖」といえる。
 恥知らずにさまざまな短歌を模倣してきた拙い歌の数々が並んでいるのを見直すと、自己批判の注を長々と付けておきたくもなるが、もちろん、そういう行為自体が恥の上塗りに当たる。若干の字句訂正をする以外は手を加えず、歌において今以上に愚かであった頃の跡を、そのまま辿り直していくこととしたい。