2020年8月23日日曜日

歌集「“VIAN-KHROUCHTCHEV”-ING」

par Le club de Tanka Vian-Khrouchtchevou  MASAKI SURUGA

1986年12月9日 全29首



横滑りせよ漸進する時の谷オレンジは深く脳裏に隠せ


黒眼鏡ややずらし冬のナポレオン遠征の果ての海と球体

銃弾の宙に居て固く乳首となる上海港ひとり知る風


カタストロフ理論をひとり教室で講ずる黒炎石ほとり、春

ラジアンに春雨今朝も麦濡らし蒼き解決策飛ぶ議会


帝王に死 唇に罌粟の花 シェエラザードを投げ込む点茶

素直さが罪となる時代到来すビニールパイプ歪みて東


遍歴は紫深き水晶球 飛べ、鷗 母の杳きバイエル

シュトラウス革命切断されし薔薇血はストローを伝わりてゆく

 

ブルータスおまえもか尾も流氷に閉じ込められて没分暁漢


球件論ひとつに二億光年を費やすセクス 無花果を食む


雨雨雨 ビニールカヴァーに亡き妻の仄蒼き陰画(ネガ)をテープで留める

 

鋏への愛ゆえ負いしこの傷をバージンシープに吸わせて(――孤絶!)


ああ中国…… 呟けど饐えてこの一夜スーパーヘテロダインを瀆す


抱れたままこのまま死んでしまいたい カメリアを食む処女林の精


行く処なく聖アンナ幼稚園批判法学派報に菫

ああ大学高度管理社会への血帷子諺文の染む裾


同性愛が犯罪か麦か破かれた明月記抄か井筒衝くイヴ


「道徳的に不正な社会の階層秩序」毟られたアネモネ三歳の僕の首と足首


セヴィニエ街スワサント・ヌフで花を摘む孤独に孤独に咲くジギタリス


注釈に死刑SALTⅡは功を奏さず批評のバルトリン腺

 

魂の暮れ方われと(はぐ)れし姉その胸ほどに固き甘食

 

うるわし××老いたオスカー・ワイルドの頬の艶 汝を抱きたし七竈

我が愛人なら既にドンの貧しき艀引き唄に世も変わり赤毛の娘


奇瑞である。夢のうちにも夢だとか法師咲きする1mmの瑕


董姦をよせジミー・スワガードはじめに傾きがあるべきでそれは今も花嫁


海綿状組織にクリスマスが来ると『実践論』が売れる 歳月なんて縮緬じゃないか


The Japan Times
は政府側に立つ 十六夜(いざよい)のすべからく(いらくさ) 我が外人部隊兵(モン・レジヨネール)

 

漆黒の黒板などない逃走する銀河ノクターンさえも仄白む降誕祭

 

 


 

【初出】雑誌「かもす」第5号[1986年12月9日発行](発行人:かもす屋徳右衛門 編集人:駿河昌樹 参加者:川島克之/須藤恭博/阿藤参三郎/高島慶子)